個人事業主が納める4種類の税金と計算方法|税金が免除されるケースと節税対策を紹介
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独立・起業して個人事業主になると、これまで会社任せだった税金のこともすべて自分で手続きをしないといけません。
「面倒だ・難しそう」と感じるかもしれませんが、経費の仕訳を正しく理解すれば経費として計上し、節税につなげられます。
個人事業主が納めるべき税金の種類や税額のシミュレーション、納税が免除されるケースや条件、個人事業主が知っておきたい節税術を紹介していきましょう。
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溝口 弘貴
つなぐマーケティング代表
電気工事士からWeb業界に転職して10数年。現在はフリーランスとしてクライアントサイトのマーケティング支援や自社メディアの運用などをおこなっています。ネットマーケティング検定やIMA検定などIT関連の資格を8つもっています。運営者情報はこちら
個人事業主が支払うべき4種類の税金と計算方法
個人事業主に課せられる税金はおもに4種類です。
- 所得税
- 住民税
- 個人事業税
- 消費税
それぞれの概要をみていきましょう。
そもそも事業主貸と租税公課とは
個人事業主に課税される税金の種類に触れる前に、まずは「事業主貸」と「租税公課」の違いを理解しておく必要があります。
事業主貸
事業主貸とは、個人事業主が「個人」として支出するものです。
たとえば、事業で得た売上から「生活費として口座から10万円を出金した」という場合は、事業には関係のない個人の支出なので事業主貸になります。
個人に課税される所得税や住民税のほか、相続税などは事業主貸となり、経費として計上できません。
租税公課
租税公課とは、事業に関して課税される税金です。
個人事業税や消費税は租税公課にあたるので、納税額は経費として計上できます。
事業主貸と租税公課を正しく仕訳ければ、納税しても「経費として税金を支払った」と申告して節税につなげることが可能です。
1.所得税
所得税とは、その年の1月1日から12月31日までに得た所得に対して課せられる税金です。
「所得」とは、売上額から必要経費を差し引いた金額なので、たとえ売上額が大きくても、経費の支出も大きければ所得額は小さくなります。
カンタンに言い換えれば「利益」に対して課税されるものだと考えるとよいでしょう。
所得税は、毎年3月15日(週末にあたる場合は次の平日)までに自分で税額を計算して報告します。
この作業がおなじみの「確定申告」です。
なお、所得税の納付期限は確定申告の期限と同じですが、税額の半分以上を納めた場合は残額の延期が認められます。
また、業務委託契約を結んでいるフリーランスの方のなかには、報酬額から「源泉徴収」として所得税分が控除された金額が支払われているケースも多いはずです。
さまざまな控除を適用した結果、源泉徴収額よりも本来の税額のほうが小さくなった場合は「還付」となり、納めすぎた所得税が戻ってきます。
復興特別所得税とは
現在、所得税の税率は課税される所得額に応じて5~45%が適用されています。
課税所得額が小さければ税率は低く、大きければ高いという仕組みです。
ただし、2013年から2037年までは、2011年に発生した東日本大震災の復興施策の財源として、本来の税率に加えてさらに2.1%の「復興特別所得税」が課税されます。
東日本大震災の復興費用は10年間で32兆円にのぼり、うち12.4兆円が復興特別所得税などの増税でまかなわれてきました。
2.住民税
住民税は、居住している都道府県に納める「都道府県民税」と、市区町村に納める「市区町村民税」の総称です。
本来は所得税とは別に申告するものですが、所得税の確定申告をすれば
所得税の確定申告をしていない人は役所で住民税の申告をすることになりますが、個人事業主の場合は確定申告を欠かさないはずなので別段の申告を要しません。
毎年6月になると居住している自治体から税額の決定をしらせる納税通知書が納付書とともに送られてきます。
通常は6月・8月・10月・翌1月の4期に分けて分割で納付する「普通徴収」になりますが、一括納付も可能です。
なお、所得税の還付金をそのまま住民税の納付に充てることもできるので、税の負担を抑えたいなら確定申告書にその旨のチェックを入れておきましょう。
3.個人事業税
個人事業税とは、事業をおこなっていることで得た所得に応じて課せられる税金です。
所得税は国に納める税金ですが、個人事業税は都道府県に納めます。
個人事業税が課税される業種は自治体によって異なるため、場合によっては課税されません。
また、税率も自治体によって異なります。
計算方法も所得税とは異なりますが、事業主控除として一律290万円が控除されるため、売上から経費・家族従業員の給与などに加えて290万円を差し引いた場合は税額がゼロになります。
つまり、対象となる業種による所得が290万円以下なら非課税です。
なお、個人事業税の申告は所得税の確定申告をすれば個人事業税も同時に申告したことになるので、改めて申告する必要はありません。
法定業種に当てはまらない場合
個人事業税の対象となるのは、地方税法第72条の2に定められている第一種事業・第二種事業・第三種事業にあたる業種に限られます。
これを「法定業種」といい、70種類あまりの職種が分類されているため、ほとんどの職種が課税対象になると考えればよいでしょう。
ただし、システムエンジニアやプログラマー、ライターなどの文筆業、漫画家や画家、音楽家、プロスポーツ選手などは対象外です。
これらの職種であれば、いくら稼いでも個人事業税は非課税となります。
4.消費税
消費税は商品の購入やサービスの利用に対して課せられる税金というイメージがあるかもしれませんが、実際には事業主の売上に対して課せられるものです。
買い物などの際に支払っている消費税は、事業主が納税する消費税分を負担しているだけで、店舗などが消費者の代わりに納税しているわけではありません。
前々年の売上、または開業2年以内で前年の1月1日から6月30日までの売上が1,000万円を超える事業主は「課税事業者」となり、消費税の納税義務が発生します。
売上額が1,000万円以下は「免税事業者」なので、消費税を納税する義務はありません。
なお、2023年10月からは「インボイス制度」が導入されます。
インボイス(適格請求書)を発行するためには税務署に適格請求書発行事業者として登録する必要があり、売上1,000万円以下でも課税事業者として消費税を納税する義務が発生するので注意が必要です。
個人事業主の税金が免除される6つのケース
個人事業主は収入面でとても不安定な立場なので、納税の負担は大変重くのしかかるでしょう。
ただし、ここで挙げる6つのケースに該当する場合は、税金が免除されます。
1.赤字が発生している
所得税や住民税は前年の所得=利益に応じて課税されます。
利益が大きければ税額も高くなり、利益が小さければ安くなる仕組みです。
もし、個人事業主としての事業のほかに収入がなく、事業で赤字が発生していれば「利益がなく、経費の持ち出しで損をした」ことになるので、所得税や住民税は課税されません。
なお、会社から給料の支払いを受けながら副業をしている場合は、副業の赤字分を給与所得から差し引いて計算できる可能性があります。
これを「損益通算」といい、給与所得と事業所得の両方を得ている方なら覚えておきたい知識です。
損益通算は、青色申告・白色申告を問わず利用できます。
2.過去3年間の赤字繰越がある
青色申告の個人事業主なら、過去3年間の赤字を繰り越すことが可能です。
たとえば、前年に大きな赤字が発生していた場合は、前年の赤字を翌年の所得から差し引いて計算します。
過去3年分の繰り越しが可能なので、翌年の所得を差し引いてもまだ赤字が残っていれば、さらに翌々年の所得からも控除可能です。
とくに起業したばかりの数年間は、起業に向けて設備や資器材などに大きな投資をしており赤字に陥りやすいので、赤字繰越は覚えておいたほうがよいでしょう。
白色申告の場合は赤字繰越ができないので要注意です。
3.所得控除額が所得を上回っている
所得税と住民税には「控除」があります。
- 基礎控除……所得額2,400万円以下なら所得税は48万円、住民税は43万円が控除される
- 配偶者控除……配偶者の年間所得が48万円以下などの場合で、所得税・住民税ともに最大38万円が控除される
- 扶養控除……12月31日時点で16歳以上の扶養家族がいる場合で、所得税は38万円、住民税は33万円が控除される
このほかにも、社会保険料控除や医療費控除、生命保険料控除、地震保険控除、寄付金控除、雑損控除などがありますが、これらの合計額が所得額を上回ると「利益がなかった」ことになり、納税が免除されます。
ただし、確定申告をしないと控除を適用できません。
「計算すると全額免除になるから申告しなくてもいい」などと誤解しないように気を付けましょう。
4.事業所得が290万円以下である
個人事業税の対象になる業種では、かならず事業主控除として所得から290万円が控除できます。
事業主控除は対象業種や所得額にかかわらず290万円なので、事業所得が290万円以下の場合の個人事業税は全額免除です。
5.免税事業者である
消費税を納税する義務があるのは「課税事業者」だけです。
年間の売上額が1,000万円以下の免税事業者は、たとえ顧客から消費税分の支払いを受けていたとしても消費税を納税する義務がありません。
なお、免税事業者が本来は国庫に納められるはずの消費税を得ている状態は「益税」と呼ばれています。
政府は益税を解消し、消費税を一律増税しなくても税収を増やすために、インボイス制度の導入などによって取引から免税事業者を排除していく方針です。
6.売上の消費税より経費の消費税が上回っている
消費税の課税事業者は「仕入税額控除」を利用できます。
これは、売上によって得た消費税から仕入れ額の際にかかった消費税を差し引くことで二重・三重の課税を防ぐ制度です。
通常、仕入額よりも売上額のほうが大きくなりますが、値引き処分などで仕入原価を下回る価格で販売すると売上の消費税よりも仕入の消費税が大きくなるので、消費税は課税されません。
【ケース別】税金計算シミュレーション
個人事業主にどのくらいの税金が課せられるのかを、職種・収益別にシミュレーションしてみます。
ライターで事業利益が250万円だった場合の税金シミュレーション
専業・副業を含めて、ライターとして稼働している人が増えています。
個人事業主のライターは個人事業税の対象に含まれていないうえに、事業利益が250万円なら消費税も免税されるので、納税義務が生じるのは所得税と住民税だけです。
所得税を算出する際は、所得額に応じて次の速算表を使用します。
引用元:所得税の税率|国税庁
この速算表をみると、事業利益250万円の税率は10%です。
250万円に税率10%を乗じると25万円となり、そこから97,500円が控除されるので、「250,000円ー97,500円=152,500円」が所得税の税額になります。
ただし、このシミュレーションでは納税者本人だけの世帯で計算しているので、配偶者や扶養親族がいる場合や、国民健康保険や生命保険を負担しているなどの要件に合致すれば、さらに減額が可能です。
住民税の計算は、所得税と比べると少し複雑になります。
住民税は、所得額に応じて税率が変動する「所得割」と、所得額を問わず一律で課税される「均等割」の二段階構造です。
所得割は市区町村民税が6%、都道府県民税が4%の合計10%、均等割は市区町村民税が3,500円、都道府県民税が1,500円の合計5,000円が課せられます。
まずは所得割の計算です。
事業利益の250万円から所得控除43万円を差し引くと207万円となり、この金額に税率10%を乗じた207,000円が所得割の税額になります。
これに均等割5,000円を加算した212,000円が住民税額です。
システムエンジニアで事業利益が600万円だった場合の税金シミュレーション
システムエンジニアも個人事業税の法定業種に含まれません。
また、事業利益が600万円なら売上額も1,000万円を超えてはいないはずなので、消費税も非課税となり、課税されるのは所得税と住民税だけになると考えられます。
所得税の速算表によると、税率は20%、控除額は427,500円です。
600万円×20%=120万円から427,500円を控除すると、所得税額は772,500円になります。
かなりの高額になるので、各種の控除や可能な限りの経費計上によってさらに節税を図っていくべきでしょう。
住民税の所得割は、600万円から43万円を控除した457万円×10%なので457,000円です。
均等割は所得額に関係なく一律で5,500円なので、住民税額は「457,000円+5,500円=462,500円」になります。
個人事業主が知っておくべき4つの節税術
事業の成否が生活に直結する個人事業主にとって「手元に残るお金を増やす」ことは非常に大切です。
ここでは、個人事業主が知っておくべき4つの節税術を紹介します。
1.経費として計上できるもの、控除されるものを確認する
個人事業主の所得は「売上-経費」によって算出されます。
所得とは、単純にいえば「利益」なので、どんなに売上額が大きくてもそれに応じて経費が多額に上っていれば「大きな利益はなかった」ことになります。
事業をおこなううえで、経費の支出は避けられません。
そして、漏れなく経費を計上すれば、それだけ所得は下がって税金が低くなります。
会社員だった頃は会社が負担・支給してくれていた事務用品の購入、事業のための移動、事務所の賃料や光熱費、通信費、取引先との会食にかかった交際費、従業員への給与や外注費、事業用に取得した不動産の固定資産税や社用車の自動車税といった租税公課は、すべて経費です。
もしかしたら、本来は経費として計上できるのにまだ見逃している支出があるかもしれません。
しかし、確定申告をした際にまだ経費の計上漏れがあったとしても、税務署が教えてくれることはないので、自分で徹底したチェックを尽くす必要があります。
どんな支出が経費として計上できるのか、利用できる控除はないのか、しっかりと確認して節税に努めましょう。
フリーランスが経費にできるもの・できないものついて詳しくみる
青色申告で最大65万円が控除される
個人事業主が覚えておきたいのが「青色申告」による特別控除です。
帳簿の作成・保管義務が生じますが、単式簿記(簡易簿記)なら10万円、複式簿記なら65万円が控除されます。
青色申告をするためには、税務署に青色申告承認申請書を提出したうえで、申告の際には貸借対照表と損益計算書を添付しなければなりません。
経理の負担が重くなりますが、基本的な簿記の知識さえあれば難しくはないので、さらに節税を図りたいと考えるなら青色申告を検討するのもおすすめです。
家賃と光熱費を按分して経費として計上する
個人事業主の方のなかには、事務所を借りずに自宅兼事務所で稼働している方も少なくないでしょう。
アパートやマンション、貸家の家賃や光熱費は、あくまでも生活費で負担するものなので経費として計上できません。
ただし、事業として使用している部分があれば「家事按分」による経費計上が可能です。
家事按分の基準や方法に明確なルールはありませんが、家賃なら事業で使用している部分の床面積の割合、光熱費はコンセントの数や使用時間などの割合で算出します。
合理的な根拠や理由がないと税務調査を受けた際に指摘されてしまうので、家事按分を考える場合は税理士などに相談したほうがいいかもしれません。
2.「小規模共済」に加入する
個人事業主を対象とした「小規模共済」への加入も節税につながります。
小規模共済は、月々1,000~70,000円の掛け金で廃業時に共済金を受け取ることができる制度で、一括・分割・併用といった受け取り方が可能なので、個人事業主の退職金として活用されている共済制度です。
共済事業なので、事業資金の貸付のほか、経営安定や新規事業展開といった際の低金利での貸付といった制度も用意されています。
小規模共済の掛け金は全額が控除対象です。
たとえば月々の掛け金が1万円の場合は1万円×12か月=年間12万円の控除が受けられます。
月々の負担は発生しますが、いずれ訪れる引退の際にまとまったお金を受け取れるだけでなく、掛け金の控除による節税も期待できるので、安心して事業に専念するためにも加入を検討するとよいでしょう。
3.「経営セーフティ共済」に加入する
小規模共済と並んで個人事業主をサポートしてくれるのが「経営セーフティ共済」です。
月々5,000~200,000円までの掛け金で、取引先の倒産によって売掛金の回収が難しくなったときの緊急貸付を受けられます。
経営セーフティ共済の掛け金は経費としての計上が可能です。
しかも、共済を解約した際は12か月以上の継続で8割、40か月以上の継続なら全額が解約手当金として支払われるので、もし利用しなかった場合も掛け金がムダになることはありません。
ただし、経営セーフティ共済の掛け金を経費として計上できるのは事業所得に限られます。
不動産所得や雑所得の場合は経費計上できないので、とくに開業届を提出しないままフリーランスとして稼働しており報酬を雑所得として申告しているライターの方は節税効果が期待できないので注意しましょう。
4.固定資産を減価償却費で計上する
税法上、1年以上にわたって使用可能で、取得価額が10万円を超える備品等は「固定資産」にあたります。
固定資産にあたる備品等を購入した際は、その全額を一度に計上するのではなく、耐用年数に応じて年ごとに振り分けて計上する「減価償却」で計上するのが原則です。
減価償却の方法には「定額法」と「定率法」の2つがあります。
等分して毎年同じ金額を計上するのが定額法で、一定の割合に応じて経費計上するのが定率法です。
起業したばかりで経営が安定していないうちは、最初に大きな節税効果が期待できる定率法のほうが有利になるかもしれません。
ただし、定率法を利用する場合は税務署に「減価償却資産の償却方法の届出書」を提出しておく必要があることをおぼえておきましょう。
さいごに
個人事業主になると、どうすれば手元に残るお金を増やせるのかを自分で考えなければなりません。
売上や経費の問題に加えて「税金」のことも考える必要があるので、面倒に感じる方も多いはずですですが、言い換えれば「自分で工夫して節税対策を尽くせば、手元に残るお金は増える」といえます。
これまで会社員として働いてきた方なら、税金のことでわからない点があるのは当然です。
「わからない」ことをそのままにしておくと、無用に税額が高くなってしまったり、税務署から指摘を受けたりするかもしれません。
自分で調べてもわからない、解決できないことがあれば、税務署の窓口や税理士に相談しましょう。
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