フリーランス新法とは?フリーランスの権利を守る7つのルールと違反時のペナルティ
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2023年4月の参議院本会議で「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」、いわゆる「フリーランス新法(フリーランス保護新法)」が可決されました。
これまで、十分な保護がなかった「フリーランス」という働き方を法律の定めによって保護するものであり、不利な働き方を受け入れるしかなかったフリーランスの待遇改善に大きな効果が期待されています。
フリーランス新法の効果を発揮するには、業務を依頼するクライアント側の正しい理解が必要です。
また、フリーランス自身も、新法施行によって仕事にどのような影響が生じるのかを知っておく必要があります。
本記事では、フリーランス新法によってこれから変わることとクライアント側が守るべきルールなどを解説しましょう。
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溝口 弘貴
つなぐマーケティング代表
電気工事士からWeb業界に転職して10数年。現在はフリーランスとしてクライアントサイトのマーケティング支援や自社メディアの運用などをおこなっています。ネットマーケティング検定やIMA検定などIT関連の資格を8つもっています。運営者情報はこちら
本記事でわかること
フリーランス新法とは?目的と施行時期
「フリーランス新法」という名称は通称です。
正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」で、すでに政府が各府省の行政情報を提供するサイト「e-Gov法令検索」にも本法の全文が掲載されています。
ほかにも通称で「フリーランス・事業者間取引適正化等法」や「フリーランス保護新法」といった名称でも呼ばれていますが、どれも同じ法律のことを指すと考えてください。
フリーランス新法の目的
フリーランス新法は、フリーランスの取引を適正化して安定した労働環境を整備する目的で、発注者側が業務委託の際に守るべき事項などを定めています。
不利な条件や理不尽な待遇を受けることが多かったフリーランスの保護がねらいです。
これまで、フリーランスの保護を直接の目的としている実効性の高い法律が存在しなかったことを考えると、フリーランス新法の制定は大きな前進だといえます。
フリーランス新法の施行はいつ?
2023年7月の段階では「国会で可決された」だけで施行されていません。
日本の法律は施行されて効力が生じるので、現在は施行前の段階です。
フリーランス新法の詳しい施行日は決まっていませんが、公布の日から1年6か月を超えない時期に施行されることになっています。
公布されたのは2023年5月12日なので、遅くとも2024年秋ころまでには施行される見込みです。
フリーランス新法ができた理由とは?フリーランスという働き方の問題点
なぜ国が新しく法律を作ってフリーランスの保護に乗り出したのか、その理由を挙げていきます。
フリーランスという働き方が抱えていた問題点
フリーランスは、税法のうえでは「個人事業主」という扱いになります。
会社ではなく個人であるという点において、これまでさまざまな不利益を被ってきたフリーランスは多いでしょう。
とくに報酬の未払いや支払いの遅延、一方的な減額や買いたたき、突然の依頼ストップ、納品物の過度なリテイク、受領拒否などは、生活に直結する大問題でした。
しかし、多くのフリーランスがこのようなトラブルに直面しても泣き寝入りするしかなかったというのが実情です。
フリーランス協会が2018年に実施したアンケート調査では、報酬の未払い(一部未払いも含む)を経験したフリーランスが約70%で、うち42.2%が泣き寝入りをしたという実情が明らかになっています。
引用元:報酬トラブル弁護士費用保険『フリーガル』提供開始 ~STOP未払い!7割が報酬未払い経験有、4割が泣き寝入り|フリーランス協会
フリーランスの盾となる法律は不十分だった
会社員の給料未払いなどのトラブルは労働基準法によって解決できますが、フリーランスは雇用関係にないので労働基準法による保護は受けられません。
フリーランスの場合、報酬未払いなどの問題は民法を根拠として解決するのが基本です。
しかし、民法を盾に問題を解決するには最終的に裁判を起こさなくてはならないケースも多く、権利は認められていても解決の実効性は期待できませんでした。
ほかにも、フリーランスを守る法律としては、独占禁止法や下請法といった法律が存在しています。
独占禁止法には、フリーランスへの業務依頼について「優越的地位の濫用」を規制する定めがありますが、かならずしも優越的な地位があるとはいえないケースには対応できませんでした。
また、下請法には資本制限があり、資本金1000万円以下のクライアントとの取引には適用されません。
中小企業との取引の多くは、下請法による保護の対象外です。
近年に示されたものとしては「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン」や「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」も存在しますが、これらはルールを示したものに過ぎず実効性に欠けています。
このような状況があったため、フリーランスが安心して働ける社会を実現するには新たな法律によって明確な規制を設ける必要があったのです。
多くのフリーランスの声が集まり新法が生まれた
政府が多様な働き方を選択できる社会の実現を目指して「働き方改革」を進めるなかで、フリーランスを保護する法律の制定は急務だったといえます。
法律の制定にまでこぎつけた背景には、フリーランス協会の尽力があったといっても過言ではありません。
同協会はフリーランス同士のコミュニティとして発足しましたが、調査の実施や白書の公表、キャリア支援などの活動をおこないつつ、政策提言にも力を入れていました。
フリーランス新法の制定は、協会が多くのフリーランスの声を集めて政府に届けたことで実現したといえるでしょう。
フリーランス新法の対象になるのは誰?
フリーランス新法が関係するのは、フリーランス自身とフリーランスを取引相手として業務を委託するクライアント企業です。
この点を、法律の内容に従って詳しくみていきましょう。
フリーランスは「特定受託事業者」
実は、フリーランス新法の条文の隅々まで読んでも「フリーランス」という用語は一度も登場しません。
この法律においてフリーランスは「特定受託事業者」という立場になります。
一般的にフリーランスとは、特定の企業に属さず、業務に応じて企業や団体と自由に契約を交わして働く人を指しますが、法的に正確な定義はありませんでした。
フリーランス新法においては「業務委託の相手方となる事業者であり、個人であって従業員を使用しないもの、または法人であって一人の代表者以外にほかの役員がなく、かつ従業員を使用しないもの」を特定受託事業者と定義しており、この働き方はまさにフリーランスのことを指しています。
フリーランスが特定受託事業者に該当するかどうかを区別する基準は「従業員を使用しているか?」です。
たとえ法人成りしていても、ほかに役員や従業員がいなければ特定受託事業者に該当します。
家族や短期間のヘルプの扱いは?
フリーランス新法では、従業員を使用していると特定受託事業者には該当しません。
ただし、事業を同居の親族が手伝っている場合は、従業員には含まないとされています。
この点は、青色専従者であっても同様です。
また、繁忙期などの人手不足を解消するために雇った臨時・短期間のヘルプアシスタントなど、雇用保険の対象にならない労働力も従業員には含まないとされています。
クライアントは「特定委託事業者」
フリーランス新法において、クライアントは「特定委託事業者」にあたります。
特定委託事業者とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者という立場です。
フリーランス新法はクライアント側にさまざまな義務や禁止行為を課す法律なのでBtoBの取引のみを対象としており、取引先が個人の消費者となるBtoCの取引は規制を受けません。
仲介事業者による再委託も規制対象
たとえばフードデリバリーのウーバーイーツは、同社と配達員の間に雇用関係がありません。
ウーバーイーツのシステムは、みずからが仲介事業者として配達員に配達業務を再委託しているかたちになるので、単純に考えると特定委託事業者には含まれないようにみえるでしょう。
しかし、フリーランス新法では仲介事業者による再委託について、再委託の実態がある発注者は特定委託事業者と同じ扱いになると明記されています。
フリーランス新法によって変わること|クライアントが守るべきルール7つ
フリーランス新法には、特定委託事業者であるクライアントに守るべきルールが定められています。
ここでは、これからクライアントが守らなくてはならない7つのルールを挙げていきましょう。
新ルール①:取引条件の明示
クライアントがフリーランスに業務を委託する場合は、給付の内容、報酬額、支払期日などの条件をフリーランスに明示しなければなりません。
このルールによって、単なる口約束だけの依頼は原則違法となりました。
取引条件を示す方法は「書面または電磁的方法」とされているので、かならずしも契約書を交わさなければならないわけではありません。
たとえば、契約書を交わしていなくても記載すべき事項を満たしていれば発注書などの書面があれば構わないし、担当者との連絡方法がメールやチャットであれば、メッセージ内に必要事項が記載されていれば適法とされます。
まだ細かい運用方法は明らかにされていませんが、契約書は紙ベースのものでなくても電子ファイルなどによる提供も許される予定です。
ただし、メールやチャットなどの電磁的方法で条件を示した場合でも、フリーランス側から交付の求めを受けたときは遅滞なく書面を交付しなければなりません。
フリーランス側から「紙ベースの契約書がほしい」と求められた場合は、原則として紙ベースの契約書を用意する必要があります。
フリーランス同士の取引でも条件の明示が必要
ここで掲げている新ルールは基本的に特定委託事業者にあたるクライアントに課せられるものですが、取引条件の明示に限ってはフリーランス同士の取引にも適用されます。
たとえば、サイト制作の業務を請け負ったフリーランスが、デザインやコーティング、ライティングなどを別のフリーランスに外注する場合は、自分自身がクライアントとして必要な取引条件を明示しなければならないので覚えておきましょう。
新ルール②:支払期日は60日以内
新ルールでは、クライアントからフリーランスへの報酬支払の期日が「60日以内」と定められました。
クライアント側は、フリーランスの業務完了や納品から起算して60日以内に報酬を支払わなくてはなりません。
たとえば「月末締め・翌月末支払い」は、当月の初日に業務完了・納品しても最大60日となるので適法です。
一方で「月末締め・翌々月末払い」では最大90日の期間が空くため違法となります。
なお、フリーランス新法の条文には、60日以内の期日に加えて「できる限り短い期間内において定めなければならない」と明示されています。
期限内に収まるとしても、できるだけ早いうちに支払いができるように配慮するというのが本ルールの趣旨です。
再委託やフリーランス同士での場合はどうなる?
再委託の場合は、上流からの支払いを受けないと再委託先への支払いが難しいケースも多いでしょう。
この点は、発注元からの支払いを受けた日から30日以内に支払えば問題ないとされています。
また、フリーランス同士の取引ではこのルールが適用されません。
新ルール③:7つの禁止行為
クライアント側には7つの禁止行為が課せられます。
- フリーランス側の責めに帰すべき事由がないのに、成果物などの受領を拒むこと
- フリーランス側の責めに帰すべき事由がないのに、報酬額を減じること
- フリーランス側の責めに帰すべき事由がないのに、フリーランスに成果物などを返品して引き取らせること
- 通常の相場と比べて著しく低い報酬を不当に決定すること、いわゆる「買いたたき」
- 正当な理由がないのに、指定商品の購入や役務の利用を強制すること、いわゆる「押し売り」
- クライアントのために金銭・役務など経済上の利益を提供させること
- フリーランス側の責めに帰すべき理由がないのに、成果物の内容を変更させたり、やり直しをさせたりすること
このルールに従えば、クライアント都合の受領拒否や勝手な減額、買いたたきや押し売り、過度なリテイクは違法です。
ただし、これらの禁止行為は「政令で定める期間以上の期間にわたって行うもの」という条件があります。
継続案件なら問題なく適用されるはずですが、ここでいう「政令で定める期間」は未定なので、単発でごく短期間の業務は対象とならない可能性があることも覚えておきましょう。
もっとも、短期間の業務だからといって、これらの行為がすべて許されると考えるのは間違いです。
ここで挙げた行為は独占禁止法においても違法とされているので「条件次第では勝手に減額してもいい」「短期間の契約ならごく低額で発注してもいい」などと考えてはいけません。
新ルール④:募集情報の的確な表示
クライアント側が新聞・雑誌・刊行物に掲載する広告・文書などによって業務委託にかかる募集の情報を提供する際は、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはなりません。
また、広告などを利用して募集情報を提供する際は、正確かつ最新の内容を保つ必要があります。
主にクラウドソーシングサイトなどのマッチングサービスにおける募集を想定した新ルールで、虚偽による募集はもちろん禁止、変更があった場合も正しい情報に修正するというごく当然のことが、改めて明示されたかたちです。
新ルール⑤:妊娠・出産・育児・介護に対する配慮
とくに女性フリーランスにとって大きなメリットとなる新ルールが、フリーランスの妊娠や出産、育児などへの配慮義務です。
クライアント側は、フリーランスからこれらの理由で申し出があれば、その業務に引き続き従事できるように納期やスケジュールを調整したり、リモートワークを許可したりといった措置を講じなければならないと定められました。
会社員のように休暇をもらう、同僚にリカバーしてもらうといった対策を講じるのが難しいフリーランスにとって、この配慮義務が定められたことは大きなメリットになるでしょう。
なお、これらの配慮義務も一定期間以上の継続業務に限って対象となるという点には注意が必要です。
フリーランス側は「一度でも契約を交わしておけば有利な扱いを得られる」などと考えてこの新ルールを悪用してはいけません。
新ルール⑥:ハラスメント対策
クライアント側には、各種のハラスメント行為によってフリーランスの就業環境が害されないよう必要な体制の整備や必要な対策を講じる義務が課せられました。
性的な言動、妊娠・出産に関する言動、取引上の優越的な関係を背景とした言動によってフリーランスの就業環境を害することがあってはなりません。
また、契約を交わしたフリーランスに対して、自社のハラスメント相談窓口を利用できる旨を周知するなどの措置が求められます。
フリーランスがハラスメントを相談窓口に相談したり、ほかのフリーランスからの相談対応に協力するために事実を述べたりしたことを理由として契約を解除するなどの不利益な扱いをするといった報復行為も禁止です。
新ルール⑦:契約の中途解除する場合の事前予告
フリーランス新法では、契約期間中の継続案件について中途解除する際の事前予告のルールも定められました。
クライアント側が中途解除をする場合、少なくとも30日前までに事前予告をしなければなりません。
フリーランス側からの求めがあれば、契約解除理由の開示も必要です。
また、このルールは中途解除だけでなく、契約期間を満了したあとに更新しない場合も同様に適用されます。
ただし、フリーランス側に不法行為があったり、契約違反があったりした場合で、契約を交わした時点で即時解約できる条件を明示していれば、事前予告なしの中途解除が可能です。
フリーランス新法に違反したクライアントのペナルティ
フリーランス新法がこれまでの法律と違って強い実効性をもつ理由のひとつが、違反したクライアントにペナルティが科せられるという点です。
違反行為があれば行政が介入できるようになった
クライアント側に違反行為があった場合、フリーランスは厚生労働大臣に対してその旨を申し出て適当な措置を取るよう求める権利が認められています。
申し出を受けた厚生労働大臣は、クライアントに報告を求めたり事務所や事業場に立ち入ったりするなどして事実関係を調査し、違反の是正・防止のための勧告、必要な措置を取らないクライアントへの命令を下すことが可能です。
とくに、勧告を無視したり、命令を下したりした場合は社名などの情報の公開も可能なので、クライアント側にとっては大きな痛手となるでしょう。
違反行為の相談窓口は「フリーランス・トラブル110番」へ
フリーランス新法に違反する行為でトラブルに発展している場合の相談窓口は「フリーランス・トラブル110番」です。
フリーランス・トラブル110番は第二東京弁護士会が政府と連携して運営している無料の相談窓口で、あいまいな契約・ハラスメント・報酬の未払いといった問題の解決を弁護士がワンストップでサポートしてくれます。
関係監督庁への報告も手伝ってくれるので、トラブルが発生したときは気軽に活用しましょう。
【参考】フリーランス・トラブル110番
命令違反などに対する罰則も設けられた
厚生労働大臣からの命令に違反した、中小企業庁・公正取引委員会による報告の求めに対して虚偽を報告した、検査を拒み・妨げ・忌避したといった行為がある場合は、50万円以下の罰金が科せられます。
法人の代表者や従業員などによる違反があった場合は、その行為をはたらいた本人だけでなく、法人も処罰の対象です。
また、厚生労働大臣による求めがあったのに報告をしなかった、または虚偽の報告をした場合は、20万円以下の過料も下されます。
過料は行政罰なので前科はつきませんが、罰金は刑事罰なので前科がついてしまうという意味で、非常に重いペナルティだといえるでしょう。
さいごに
フリーランス新法は、これまで不当・理不尽な扱いを受けても泣き寝入りをするしかなかったフリーランスが安心して働ける環境を創り出すために定められた法律です。
従来の法律には足りなかった点も補われており、高い実効性が期待されています。
一方、クライアント側は新たに守るべきルールが多く、違法とならないように注意しなければなりません。
フリーランスとして働いている人でも、ほかのフリーランスに業務を依頼して自分がクライアント側にまわるシーンもあるので、新たに定められたルールをしっかりと理解しておきましょう。
フリーランスにとってもクライアントにとっても、フリーランス新法が制定された影響は非常に大きなものになります。
まだ未決定の部分もありますが、フリーランス・クライアントのお互いがより良い関係を築き、自由な働き方がさらに推進されるきっかけになるでしょう。
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